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春雪

私の部屋の大きい窓の向こう。
仄暗く広い空を、真っ白な雪が舞う。
日本で言うと5階にあたる私の部屋。
窓の外の視界を遮るものはなく、ふっくらと大きな粒の雪が灰色の空に描く
幻想的なシーン。3月の終わりだと言うのに、今日の天気は大雪。

間もなく期末試験期間が始まるので、机に向かって
現代イタリア文学の試験範囲をぼんやりと眺める。
真面目に先生の講義を聞くことのなかった授業だったけれど
今は、この文学作品が描写する
「人間の生の循環」と「生の基盤となる母の存在」と
昨日起きた悲しい出来事とが、心の中でピタリと重なり合う。
ゆらゆらと踊り、空に留まろうとするものもいれば、
風に押されて急ぐようにして落ちていくものもいる、
引き合う様に寄り添って、接合した部分が溶け合い、
また最後まで独りで落ちていくものもいる、
窓の外を舞い散る儚いような雪の一生を見ていたら
言葉にならない程の悲しい気持ちで一杯になって、机の上でうずくまってしまった。

一緒に住んでいるイタリア人家族のおばあちゃんの急死。

肺炎だと分かって入院してから、ほんの10日。
あっという間の死だった。私の大家さんは、そのおばあちゃんの娘さんにあたる。
実母の突然の死を受け止めるには、10日は早過ぎる。
だって、2週間前まで、おばあちゃんは、キッチンで料理の腕をふるって
いたのだもの。私だって、信じられない。

毎朝学校に行くとき、「今日は寒いから、ちゃんと暖かくしていきなさい」と
暖かい両手でしっかりと、いつも冷たい私の手をじんわり温めてくれた
おばあちゃん。
間もなく日本から届くお汁粉を、おばあちゃんにも食べてもらいたかった。
by dolcissimokurobe | 2008-03-20 20:24 | La vita in Italia
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