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肉体美と表現力

何を隠そう、これが初めてのバレエ観賞。バレエに造詣が深いあやちゃんが大好きな
振付師ベジャールが手がけた公演です。
ベジャール・バレエ団の本拠地、ここスイスのローザンヌでの追悼公演となりました。
タイトルは、「80分間の世界旅行」。
世界のあらゆる部分の約20カ国ほどを、振付、衣装、音楽、舞台演出で表現し、
まるで世界旅行を80分間で楽しむような錯覚を起こしてくれた時間でした。
正統派バレエもきっと素敵なのでしょうが、正統派の枠にとらわれない、
自由で伸びやかで、心躍るバレエ。美しく緩やかに魅せる場面では舞台に引き込まれ、
躍動的に舞台中を情熱が迸る場面では、身体が自然と背後に圧倒させられるのを
感じずにはいられませんでした。
そして、きっと連続写真で切り取ったとしても、どの瞬間にも、「完全な美」が
そこにはありました。無駄な部分が一切ない美しすぎるほどの肉体、
肉体が極限に撓る曲線、足先にも指先にも水を打ったような緊張感が漂い、
それでいて、且つしなやか。
『人間でいて、人間を超えた美』とでも言うんでしょうか。
この「完全な美」によって作り出された空間が、ジャンルを問わない音楽と
移り変わる舞台、民族色を織り交ぜた舞踊に見られる高い技術と表現力を伴って
至高のエンターテイメントを完成させていました。
これぞ本物のエンターテイメント。舞台終了後、拍手喝采は止むことがなく、
あっという間の80分だったけれど大きな感動をもたらしてくれました。

今回の旅で、「人間の肉体美と表現力」を感じた瞬間と言えば。
ヴェネツィア、サン・ロッコ大信者会の大広間を埋め尽くすティントレットの
名画群も挙げたいところ。
ベジャール・バレエ団のダンサーが、余分なものを一切つけない
ミニマムな肉体の完全美なら、ティントレットの描く肉体は、女性は豊潤、艶やか、
水を湛える果実のように膨らんだ曲線を持ち、男性は隆々と盛り上がる筋肉の線、
雄雄しい精力が漲る肉体、つまりマキシマムな肉体の完全美だと、私は思います。
実際に存在しない人間のマキシマムな肉体の完全美を、どうしてもこうも
リアルに劇的に描けるのか。どちらも、人間でいて、人間の域を超えている美。
人間の完成された肉体美に、人間の身体を知り尽くした高い表現力と
人間讃歌とも言うべき「人間であることの喜び、その美しさを讃える」心を
注ぎ込むと、人間は人間の域を超えて、「神」ともまた違う、
『anima』(イタリア語で「魂、霊魂、心、生命、精髄」の意)の領域に達する
のだという事実を突きつけられたようです。
『umano』(人間の)と『anima』の境界を、芸術作品から感じ取った瞬間、
身体は強張り、手の中に汗が流れるのを感じます。
そして、最後にもう一つ。我が町ペルージャにある国立ウンブリア美術館に
所蔵されている無数の絵画。神聖さの極みゴシック絵画から人間味を巧みに
表現したルネサンス絵画の移行を眺めていて、ゴシックとルネサンスの
両者の美点を兼ね備えた珠玉の名画を多く拝することが出来ました。
『神でいて人間、人間でいて人間を超越した』宗教画が放つ輝きと精神。
今回の旅で鑑賞した、パルマ大聖堂のコレッジョの天井画、
ヴェローナ、プーシキン美術館展でのイタリア絵画の変遷、
ヴェネツィア、サンタ・マリア・グロリーザ・デイ・フラーリ教会の
ティツィアーノ「聖母被昇天」、サン・ロッコ大信者会のティントレットによる絵画群、
ペルージャ、国立ウンブリア美術館所蔵のロマネスク~ルネサンス期の名画を通して
イタリア古典芸術が持つ真の魅力と底力の一部を堪能することが出来ました。

ふざけながらも、バレエと絵画によって、きちんと芸術に彩られた旅行を敢行した
私とあやちゃん。3年ぶりの二人の旅に大きな華を添えてくれましたね。
by dolcissimokurobe | 2008-01-08 22:45 | Il viaggio
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